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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2853号 判決 1999年10月28日

控訴人(原告) 千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 田子真也

被控訴人(被告) Y

右訴訟代理人弁護士 並木政一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二四五一万〇三九三円及びこれに対する平成九年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二頁一〇行目の「B」の次に「(以下「B」という。)」を、同六頁二行目の「軽い」の次に「程度の」を、同七頁三行目の「危険なことであり」の次に「(東京消防庁でも、ろうそくによる火災が近時増加の傾向にあることから、「ろうそくからの火災を防ぐには、「ろうそく立て」を用いて転倒しないよう配慮したり、不燃性の台や皿などを用いて万一ろうそくが転倒しても炎が周囲に拡大しないように注意するとともに、その場を離れる時は必ず火を消すことを心掛けて下さい。」と注意を換起している。)」を、同行目の「重過失」の前に「失火責任法に規定する」を各加える。

2  原判決一〇頁初行の「重過失」の前に「失火責任法に規定する」を加える。

3  原判決一二頁九行目の「借家人賠償責任担保特約条項」の次に「(以下「借家賠責」という。)」を、同末行末尾の次に「右借家賠責とは別に、現行の失火責任法を前提に賠償能力を補充する目的で、被保険者が日常生活に起因して負担した不法行為による損害賠償責任を填補する特約である個人賠償責任担保特約条項(以下「個人賠責」という。)が存在する。」を、同一三頁初行の「本件特約」の次に「のただし書き」を、同行目の「重過失とは、」の次に「本件特約が設けられた趣旨、借家賠責及び個人賠責との整合性からみて」を各加える。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」第三に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一四頁同六行目の「芳香用の」の次に「土器製の容器中の」を加え、同一五頁初行の「ろうそくの火はついたままであった。」を「ろうそくの火をつけたままであった。当時、ろうそくの炎が土器製の容器の口から外へ出ることはなかった。」に、同末行の「本件建物」を「本件戸室」に各改め、同一七頁六行目の「被告は、」の次に「賃借人としての」を加え、同八行目の「ところで」を「次に」に改める。

2  原判決一八頁初行の「相当であり」から同四行目末尾までを「相当である(最高裁昭和三二年七月九日第三小法廷判決・民集一一巻七号一二〇三頁)。」に、同五行目の「カーテン」を「南側掃き出し窓のカーテンから約三〇センチメートルの所に」に各改め、同六行目の「窓を」の次に「約三〇センチメートル程」を、同七行目の「分かっていながら、」の次に「本件出火直前の時点では」を各加え、同八行目の「被告は、このカーテンについては、」を「本件ろうそくの炎は土器製の容器の口から外に出ることなく、被控訴人は、前記のカーテンが風であおられないように」に、同一九頁初行の「行っていたものであり」を「行い、本件居室に出たり入ったりしており」に、同行目から同二行目にかけての「出ていたものではない」を「出ていったものではなく、本件ろうそくから完全に目を離し、放置した状態に置いたとまではいえない」に各改める。

3  原判決一九頁四行目の「甲第四号証」から同九行目末尾までを、次のとおり改める。

「甲第二号証、第四号証、乙第二号証、被控訴人の供述及び弁論の全趣旨によれば、本件火災当日、浦和観測所の測定では、南南西の風で風速は平均一・六メートル毎秒、最大でも四メートル毎秒であったこと、本件戸室は二階にあり、その南側は第二寿ハイツ(隣接建物)が隣接していること、右当日、前記窓から風が入り、本件ろうそくの炎が北の方向に揺れていたことが認められ、右事実に照らすと、控訴人が主張するように前記窓からかなり強い風が吹き込んでいたとまでは認定することはできず、前記のようにカーテンをカーテン止めでまとめた上で、本件窓を換気のため開けることが危険で躊躇するような状態であったとは認められない。

また、前記のように、本件ろうそくは別紙図面一の形状の不燃性の土器の容器にろうを溶かしこんだもので、香りを楽しみ、消臭の目的で使用するもので、ある程度継続的にろうそくを燃焼させることが予定されており、不燃性の容器に入っているため、普通一般のろうそくに比較し炎が出ている部分が少なく、転倒等の危険は少ない。」

4  原判決一九頁一〇行目の「このような諸点を考えると」を「右によれば、被控訴人には、火のついた本件ろうそくの取扱につき配慮を欠く点があったことが窺われるが、右認定したような事情の下では、本件ろうそくの火がカーテンに燃え移り本件火災が発生するという事態は一般人にとって必ずしも容易に予見し得ないところであり」に改める。

5  原判決二二頁八行目の末尾に「なお、被控訴人は興亜火災海上保険株式会社との間に火災保険契約を締結していた(弁論の全趣旨)ものであるが、本件特約に定める「重大な過失」があったとは認められない以上、右保険契約の存在が前示の結論を左右するものではない。」を加える。

二  以上の次第であって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧康生 裁判官 滿田忠彦 鶴岡稔彦)

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